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黒船館

預かっていた印鑑

2009年8月号

月刊「黒船館」

 

  吉田正太郎はいつの頃からかわかりませんが、川上澄生から「自由にお使いください」といわれて預かった印鑑を持っていました。もちろん川上澄生死後、直ちに正太郎長男直太がお悔やみに参上した際にお返ししましたので、現在は当館にはありません。

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 しかし、判子好きの正太郎は戴いた多くの作品の台紙などに判を押しています。このような世界では署名や印鑑は己を証明する大切なものと思います。自分の作品に押す判を他人に預け、自由にお使いくださいというのはありえないというのが当然ではないでしょうか。

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  話は別ですが、川上澄生からの書簡に見られるあて先の住所氏名は、真面目な書体で省略することなくきっちりと書かれています。手紙の内容を見ても、まっすぐで嘘のない誠実な言動がうかがえます。

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 吉田正太郎は、自らの物差しで厳然と人やもの、ことの良し悪しを判断し、自ら培った価値観や美意識の基準に妥協を許さず生涯を生き抜いた人物といわれています。川上澄生のこのような言動は、吉田正太郎の心を揺さぶらないわけがありません。

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川上澄生と吉田正太郎との出会いは、吉田正太郎の一枚のうちわ絵の唐突な所望にはじまります。しかし、両者の交流は、単なるもののやりとりではなく、一個の預けられた印鑑が示すように互いに信用できる深い心の結びつきの上に成立していたと思うのです。